TIMEX Atelier
文/水藤 大輔
さぁ、タイメックスから新しいコレクション「タイメックス アトリエ」が日本でも発表されました。このコレクションでは、「タイメックス流のラグジュアリーが表現されていく」とのこと。ただ、"ラグジュアリー"という言葉って、解釈がとても難しい。日本語だと「贅沢」との訳が真っ先に出てきますが、ただ高価であれば贅沢になるのかというと、そうではないように思います。

少し前まで、高級時計の世界では「ラグジュアリースポーツウオッチ」というジャンルがブームになり、そのまま腕時計のデザイン文法として根付きました。その定義は各メディアで異なりますが、筆者個人の見解ではケースとブレスレットが一体になるようデザインされ、ある程度の防水性を保ちながら、厚さ10mm前後のスリムなデザインにまとめられたものだと考えています。では、そのデザインのどこに"ラグジュアリー"を感じることができるのか。そもそものラグジュアリースポーツウオッチは、1970年代にスイスの頂点ブランドたちがステンレススチールで、スポーツウオッチに近いデザインの時計を作ったという意外性こそが原点でした。つまり、雲上ブランドなのに時間をかけて加工の難しいステンレススチールを使った贅沢さがそこにあり、買い手側もわざわざ貴金属の時計を選ばない、という両者の贅沢さがあったわけです。もちろん貴金属のケースに宝石をセッティングしたジュエリーウオッチは間違いなくラグジュアリーなアイテムだと言えますし、また宝飾とは別のアプローチとして、あらゆる技術と素材を駆使したり、職人がたっぷりと時間をかけたりして作り上げた時計もラグジュアリーウオッチと言えるでしょう。
前置きが長くなりましたが、このように時計界における"ラグジュアリー"にはさまざまな捉え方があります。では、「タイメックス アトリエ」はどうでしょうか? この時計はスイスのルガーノにあるタイメックスのアトリエで作られているそうで、それがコレクション名の由来にもなっています。タイメックスはマスプロダクトをメインにする世界有数のブランドですが、この新コレクションに関しては手作業を重視しているため、年間に生産できる本数は8,000本程度とのこと。価格は、ブランドの中では異例となる20万円前後となっています。ただ、時計をよく見るとスケルトンラグを用いたアウターケースと、ムーブメントを収めたミドルケースの複合設計という非常に手の込んだ作り。これに内部からビス留めする別体構造のリューズガードを採用することで、エッジのキワまで仕上げきっています。ラッカー仕上げのピアノブラック調ダイヤルはスマートな針の裏側が映り込むほどに艶やか。そこに嵌まるメタルリングや縁取り付きスーパールミノバ夜光インデックスが、リッチな立体感を盤面に創出しています。

はっきり言って、この「タイメックス アトリエ」は、現行のラインナップのなかでも明らかに異質。ケースの造形だけをとっても、かなりの時間をかけて作られていることが伝わります。ダイバータイプではセラミックインサートベゼルを使うなど、素材使いにもクオリティを感じることができました。まさに先述したような「時計界におけるラグジュアリーの要素」を網羅している時計が、「タイメックス アトリエ」といっても過言ではないでしょう。ただし、これらはあくまで筆者の見解。タイメックスグループのクリエイティブディレクターであるジョルジオ・ガリ氏曰く、「タイメックス流のラグジュアリーはひと言では表せない」とのことでした。時間をかけて作ることはもちろん、それが日常的に使える時計でなければならないし、時計界におけるタイメックスとしての存在意義を保った価格を維持する必要もある。一方で、「タイメックス アトリエ」を着けることでいつもの生活の中に精神的な豊かさが感じられるような時計であってほしい。そうしたあらゆるブランドと彼の思いが、この時計には詰まっているのです。デザインについても、ヴィンテージではなく、近未来的なものでもない、純粋に現代性を追求するなかで、見るたび着けるたびに新たな発見が楽しめるようなディテールをふんだんに盛り込んだと述べていました。そうした「長く使う中で訪れる驚き」も含め、飽きることなく使い続けられる時計であることについてもまた、「タイメックス流のラグジュアリー」を構成する要素と言えるでしょう。

確かに1万円以下から選べるタイメックスのラインナップを見渡せば「タイメックス アトリエ」は高額ですが、一方で誰もが知るブランドの最高峰を所有することはこの上なく魅力的でもあります。そのクオリティも他の高級時計ブランドと比較して決して引けを取るものではありません。これについては、20年以上にわたり年間数百本のラグジュアリーウオッチを見続けてきた筆者が断言しますし、ダイバータイプの「マリーン M1a」とユーティリティモデル「GMT M1a」ともに先行発売したアメリカで初期ロットが完売したという情報が、その裏付けとなるでしょう。かつては親しみのあったスイスの高級時計がどんどん高嶺の花になっていくなかで、「タイメックス アトリエ」は機械式時計を好む人々にとっての有力な選択肢となりそうです。
1980年生まれ。時計雑誌の記事制作を主に請け負っていた編集プロダクションを経て、学研(現ワン・パブリッシング)の時計専門雑誌「WATCHNAVI」の編集スタッフに。2019年より同誌およびウェブメディアWATCHNAVI Salonの編集長に。2013年に時計販売員資格「ウオッチコーディネーター(CWC)」取得。

