TILE」と「TIMEX」。

「ハンドメイド」と「大量生産」。その交わり。

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1904年アメリカ。この年に開業したニューヨーク市地下鉄の各駅構内を飾ったのはモザイク状に敷き詰められたセラミック(陶器)のタイルであった。そう、「サブウェイ・タイル」のはじまりである。そんな史実から着想を得て、2021年9月にTIMEXから新たなモデルがリリースされる。今回は"クラシック・タイル コレクション"と名づけられたこのモデルがどのように誕生したのか、その軌跡筆跡を追う。

―「サブウェイ・タイル」とは?

今日でいうところの「サブウェイ・タイル」の起源とは何なのか?そのこたえを説明するには英国の詩人、ウィリアム・モリスが主導した19世紀のアーツ・アンド・クラフツ運動に触れる必要がある。

この運動は、いうなれば産業革命によって生じた「大量生産」に対するアンチテーゼであり、中世の手仕事に回帰し生活と芸術を統一することを主張した運動だった。そして、この運動のアメリカにおける体現者と名前が挙がるのが、ニューヨーク市地下鉄の内装を手掛けたヘインズ&ラファージュである。彼らはいわゆる『アメリカン・ルネッサンス』と言われるヨーロッパの古典建築をベースにしたボザール様式の建築アーティストであり、当時アメリカで流行していた建築スタイルの急先鋒だった。つまり、言うまでもなくニューヨーク市地下鉄の内装を彼らが手掛けた当時、使用されたのはハンドメイドのタイルであり、それが「サブウェイ・タイル」の原点となったのだ。

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Euclidとは?

さて、話を現代に戻そう。2021年現在、ヘインズ&ラファージュが望んだようなオールハンドメイドのタイルが世界で稀有な存在になっていることは容易に想像がつくだろう。しかしそんな時代において、ハンドメイドのタイルに魅せられ、タイル職人として活動しているヒトが日本にいる。それが白石普さんと吉永美帆子さんのふたりで組んでいるユニットEuclid(ユークリッド)である。

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彼らは言う。

「昨今の合理的かつ均一的な工業製品化したタイルではなく、焼き物らしさと装飾にこだわったタイルを生み出し、豊かな心を持つ暮らしをタイルを通して伝えていきたい。」と。

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TIMEXEuclidの出会いは、TIMEXと同じアメリカ創業のスターバックスが2019年に東京、中目黒にオープンさせた「スターバックス リザーブⓇ ロースタリー 東京」の内装をEuclidが手掛けたことだった。

自らの手でタイルをつくり、それらをつかった空間をデザインし、施工にもこだわるEuclidの活動とスタンスをその際に見たTIMEXは「サブウェイ・タイル」の原点となった往年のアメリカのモノつくりとアーティザナルとの共通点を見出し今回の企画がスタートすることとなったのだ。

1854年の創業当時から時代の必然に応じ「大量生産」を突き詰め、NASAのミッションやタフなトライアスロンなどでの使用にも耐えうるクオリティコントロールを今も維持し続けるTIMEX。     

一方で、ハンドメイドにこだわりそれぞれのタイルの仕上がる表情の微差にモノづくりの醍醐味を見出してきたEuclid

一見すると相反するプロセスでモノづくりを行う両者のコントラストが、この企画の根幹となるのであった。

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―「クラシック・タイル コレクション」とは?

TIMEXが今回の企画を通して世界に伝えたかったこと。それは、人々が日々触れるプロダクトがマスな工業製品であろうが、ハンドメイドであろうが、製造されるプロセス上には必ずヒトが介在し、そこに明確な意図やロマンがある場合、両者の間には垣根は存在せず、本質的には一緒であるということである。

だからこそ、このコントラストを視覚的に表現する上で「タイル」という手法は必然であり、そのタイルはかつての「サブウェイ・タイル」のようにアーティナザルでなくてはならなかった。

マスプロダクションとハンドクラフト。そのコントラストをホワイトとブラックのモノクロームのタイルを通して伝える。それが「クラシック・タイル コレクション」なのだ。

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―ビジュアル製作にあたり

このコレクションを通して伝えたいメッセージをビジュアルとしてアウトプットするにあたりとられた手法は、タイルの中に"クラシック・タイル コレクション"の時計を埋め込み表面を合わせるという非常にユニークなモノであった。

 言葉にするとそれほど難しく聞こえないかもしれないが、タイルを組み合わせて面を作るためには、数週間におよぶタイル自体の製作だけでなく、自然素材ゆえの11枚の表情の繊細な調整、さらにはタイルとタイルとを組み合わせる目地や仕上がり面積、見た目の修正など緻密な計算が求められる。さらに、今回は「サブウェイ・タイル」として一般的なブラックとホワイトの2色が選ばれたわけだが、ホワイトとブラックのTIMEXとタイルの質感を合わせることが最も難しかったのだとか。タイルは自然素材がベースなので釉薬の色の出方も11枚焼成過程で変化があるので、完成にいたるまでには膨大な時間をかけて試行錯誤が重ねられた。

 せっかくなので今回使用したタイルの製作過程を以下に簡単に記述しておこう。

 今回製作したタイルは自然界にある粘土を素材とするのだが、まずは適切な素材を選び捏ね、伸縮性や仕上がりの大きさを加味して成形し、数週間をかけ乾燥させるという作業が発生する。その後、素焼きと呼ばれる1回目の焼成が行われ形が定まったのち、釉薬(ゆうやく)を11枚に掛けて本焼きという焼成を経ると、釉薬がガラス化され光沢を持ち、タイルが完成する。

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―「クラシック・タイル コレクション」219月リリース!

 「クラシック・タイル コレクション」としてリリースされるモデルは、今回のために刷新された定番のオリジナル・キャンパー(※詳しい方はご存知かも知れないが、このモデルは2015年に4半世紀ぶりに日本企画で復刻を遂げた)とクラシック・デジタルの2モデル。本企画の趣旨を反映させ、オーセンティックな三針時計とデジタル時計というコントラストを引き立てるために選ばれたわけだ。

 両モデルともにベルトはこれまでTIMEXのインラインにはなかったコマ・ブレスレットが採用される。「サブウェイ・タイル」の陶磁器の色に近くなるよう細かな調整が施されたコマは、まるでタイルを組み合わせるように職人の手により1つひとつ組み上げられる。

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―最後に

相反するものが交わり、そしてコントラストを生み出す時、そこにはうわっ面の体裁などは存在しえず、本質的なモノづくりに対するピュアな姿勢のみが明るみに出ることとなる。少し大げさかもしれないが、もし貴方がこのビジュアルを見たとき、あるいは"クラシック・タイル コレクション"を手に取ることがあるならば、いまいちどモノに宿るイデオロギーを感じて見て欲しい。そんな体験をできる機会はそうそうないはずだ。

写真:野口彈 文:コボ田形