"タイメックス・クロニクル" - タイメックスと時が紡いだアメリカ物語



連載② 全米のキッズを虜にした 伝説のウエスタンヒーロー

「ホパロング・キャシディ」



1990年代から時計をフィールドに取材・執筆活動を続けるジャーナリストの名畑政治氏は、実はタイメックスの熱烈なファン。連載初回はタイメックスの源流となるウォーターベリー・クロック・カンパニーから、販社「インガーソル」やベストセラーとなった懐中時計"ヤンキー"の誕生などをご紹介いただきました。

そこで連載第二回となる今回は、日本ではほとんど知られていない幻のキャラクター・ウォッチについての物語をお届けします。1950~60年代、名優クリント・イーストウッドが出演し、日本でも放送され人気を博した「ローハイド」など、多数の西部劇TVドラマが米国で製作されました。そんな中、戦前から続くウェスタンヒーロー「ホパロング・キャシディ」も実写でTVドラマ化され大人気となりましたが、なぜか日本では放送されず今や知る人はごくわずか。そんな幻のウェスタンヒーローを、名畑氏自身が所有する貴重なキャラクター・ウォッチやグッズ、当時の広告と共にご紹介いただきます。



文/名畑政治
写真/江藤 義典(fraction)

黒装束で2丁拳銃。悪をこらしめる西部の男 それが「ホパロング・キャシディ」!

 19世紀末のダラー・ウォッチ、そして20世紀初頭の軍用時計をベースとした一般向けの腕時計で大衆へと浸透したインガーソル(タイメックスの前身)は、1933年、世界初の「ミッキーマウス・ウォッチ」を発売しました。この時代は1929年に始まった世界恐慌に起因する大不況に見舞われていましたが、「ミッキーマウス・ウォッチ」は数年間で実に200万本もの販売を達成。これによってキャラクター・ウォッチの世界が開拓されたのです。

 やがて第二次世界大戦が終わり、世の中が落ち着きを取り戻した1950年代、インガーソルの事業を引き継いだタイメックスは、戦前に映画化され、戦後にテレビやラジオのドラマ・シリーズとなったウェスタンヒーロー「ホパロング・キャシディ」(愛称は"ホッピー")のキャラクターウォッチを製作し、子どもたちの人気をさらいました。

 といっても日本ではテレビ放送もされず、ほとんど知られていない「ホパロング・キャシディ」のことを少し説明しましょう。

 ホパロング・キャシディ(Hopalong Cassidy)は、1904年にクラレンス・E・マルフォードによって生み出されたカウボーイのキャラクター。当初はパルプ・マガジンと呼ばれる廉価な大衆向け雑誌に掲載されましたが、1935年に映画化され、ウィリアム・ボイドが主役を演じました。

 常に黒装束に身を固めた白髪のホパロング・キャシディは、強い正義感の持ち主で2丁拳銃の早打ちを得意とし、愛馬トッパーにまたがり悪をこらしめる勧善懲悪キャラクター。このキャラクター造形が爆発的に受け、全米の国民的ヒーローとなったのです。

 面白いのは、ホパロングを演じたボイドが全財産をつぎ込んでキャラクターの版権を獲得したこと。通常の俳優ならイメージの固定化を嫌い、ヒット作であっても、なるべく早く手を引きたいと考えるでしょうが、ボイドの考え方はまったく違ったのです。そして、これがその後の彼の人生に大きな幸運をもたらしました。


 
 

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丸太小屋を模したプリントを施し、馬の鞍をかたどった特製ペーパーボックスに収められた1950年代のホパロング・キャシディのキャラクター腕時計。特製のウェスタン・モチーフ・ストラップなど、キッズ向け腕時計にも関わらず、非常に凝った作りで、現在でもアンティーク人気が高いようです。


 
 

戦後のTV実写版で人気が爆発 あらゆるグッズが登場した

第二次大戦前にホパロング・キャシディを演じ、その版権を自ら獲得したウィリアム・ボイドでしたが、戦後のブームは、まず戦前の映画のテレビ放映から始まりました。

これにより人気が再燃した「ホパロング・キャシディ」のテレビ化が決定しますが、その前にテレビ局は戦前の映画を編集して放送。この時、フィルムを提供したことで、ボイドには25万ドルもの報酬が転がり込んだといいます。

 さらに1949年6月24日からウィリアム・ボイド主演の30分テレビシリーズ放送が開始。番組は1951年まで続きましたが、1950年からはラジオドラマの放送も始まり、こちらは1952年まで局を移してまで放送が続いたそうです。

 このテレビ・ラジオ化によってホパロング・キャシディの人気が爆発。ボイドは米国の国民的雑誌の『ルック』、『ライフ』、『タイム』などの表紙に登場。さらにタイメックスのキッズ向け腕時計をはじめ、ランチボックスやローラースケート、カメラ、ラングラーが製作したブラックのジャケットやパンツなどが発売され、巨万の富をボイドにもたらしたのです。

この1950年代に人気を博した『ホパロング・キャシディ』のキャラクター・ウォッチは、ダイアルに肖像が描かれ、本革のストラップには牛やカウボーイハット、サボテンと蹄鉄といったウェスタンのモチーフが刻印されており、バックルもプレスで彫金を再現したウェスタン調という凝った作り。しかも、馬の鞍を模した専用ボックスに収められ、キッズたちに絶大な人気を誇りました。

 ちなみにホパロングのキャラクター・ウォッチには米国版の他に英国版もあり、2個並べないとわかりませんが、ダイアルに描かれたホパロングのシャツのエリの形が米国版と英国版では微妙に異なっています。

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1950年代に発売され大人気となったホパロング・キャシディの腕時計は、キッズ向けということでケース径23mmほどの小ぶりなサイズ。レザー製のストラップにはウェスタンバックル付きでバッファローなどウェスタンをイメージした刻印が施され、気分を盛り上げます。

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ブラックのパンツにブラックのウェスタンシャツ、ブラックのブーツにブラックのカウボーイハットと全身黒づくめで二丁拳銃を使う伝説のウエスタンヒーロー、ホパロング・キャシディ。今見てもカッコいい!


 

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1950年代のアメリカの雑誌に掲載されたホパロング・キャシディのキャラクター・グッズの広告。ラングラーの発売元であるブルーベル社のキッズ用コスチュームやランチボックス、腕時計、カトラリー、自転車など、多種多様な"ホッピー"・グッズが紹介されています。


 

あの名作「トイ・ストーリー」のウッディも 「ホパロング・キャシディ」が原型だった!

 しかし、これほどまで人気だった「ホパロング・キャシディ」が日本で放送されなかったのは、ちょっと不思議。1950年代末から60年代、黎明期にあった我が国のテレビでは、「シャイアン」、「ボナンザ」、「ライフルマン」、「ララミー牧場」、「ローハイド」、「ローン・レンジャー」、「怪傑ゾロ」といった西部劇テレビシリーズが多数放送され人気を獲得していたにも関わらず、です。

 そして、もうひとつ興味深いのが、ディズニー/ピクサーの人気アニメーシリーズ「トイ・ストーリー」に、「ホパロング・キャシディ」が影響を与えたことです。

 つまり「トイ・ストーリー」のウッディは、1950年代のテレビで人気だった人形劇番組「ウッディのラウンドアップ」の主人公という設定。実は、この劇中劇(「トイ・ストーリー2」に登場)のヒントのひとつが「ホパロング・キャシディ」なのです。

 ちなみに「ホパロング・キャシディ」の版権管理のためボイドが設立した会社は現在も活動を続け、過去の映画やテレビシリーズのDVDをリリース。さらにホパロングを主役とする新たな小説も執筆されているということです。

 さらに1994年にはウィリアム・ボイド生誕100年を記念し、米国限定でホパロング・キャシディの時計が復刻されました。ラングラー・ジャパンでも2014年にホパロング・キャシディのブラック・ジャケットを少量生産したことがありました。

 もちろん、ウィリアム・ボイド自身は1972年に77歳で亡くなっていますが、イメージの固定化をものともせず、人生のすべてをホパロング・キャシディにかけた彼の判断に、決して間違いはなかったというわけですね。

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30年ほど前、筆者が東京の骨董市で入手したホパロング・キャシディのボックスカメラ。その時は予備知識がまるでなく、「アメリカで人気ウェスタン・キャラクターのトイカメラ? 面白いから買っておこう」と思っただけでした。

ホパロング・キャシディの時計を探していた

稀代のコレクター岸部四郎氏のこと

「岸部のアルバム 「物」と四郎の半生記」より

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日本ではほとんど無名の「ホパロング・キャシディ」ですが、稀代のコレクターとして知られた故・岸部四郎氏は、さすがにこのキャラクターを知っていました。

 岸部氏の著書「岸部のアルバム 「物」と四郎の半生記」(夏目書房 1996年)には、ホパロングのファンであり、グッズのコレクターだった岸部氏がホパロングのラジオを紹介しつつ、こんなエピソードを紹介しています。

「ぼくはキャシディのユーモラスなキャラクターがとても好きで蒐めているのだが、状態の良いものはなかなかあらわれない。手元にあるラジオはかなり状態の良いものだが、当時の材質はアルミなので、一般にはへこんだり汚れがついたりしたものが多いのだ。いつぞやテレビで『ホパロング・キャシディ』の時計を探している。完品なら三十万円』という話をしたけれども、反応はなかった」

 残念ながら岸部氏は2020年に亡くなられましたが、できればお元気なうちにホパロング・キャシディについて語り合いたかったと思うのです。

タイメックス・クロニクル 連載初回「大衆を魅了したインガーソルのダラーウォッチ」