ヴィンテージデニムを探求し、その魅力を現代のプロダクトとしてリリースする、いわゆるリプロダクトカルチャーの世界的なパイオニアとも言えるアメリカンカジュアルブランドのひとつ、"WAREHOUSE & CO."。本連載、第3回目となる今回紹介するのは同ブランドの名物プレス藤木さん。デニム業界のご意見番とも言える彼から見たTIMEXの魅力とは?

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―TIMEXとの出会い

「J.CREWからデニムを別注いただいた際に

彼らからプレゼントしてもらったのがTIMEXだったんです」

「あれは2010年のことでした。ある日、J.CREWサイドからWAREHOUSE & CO.にデニムを別注させて欲しいというオーダーがあったんです。どうやら、当時J.CREWのメンズラインのヘッドデザイナーだったフランク・マイジェンの弟子にあたる方がウチのデニムが好きで彼に勧めたらしく、そこから別注の話が挙がったみたいですね。我々としては、面白そうな案件だったので、ぜひやりましょうということで早速何度かの打合せを経てサンプルをニューヨークのオフィスに持って行ったわけなのですが、その際に彼らからお土産として頂けたのがJ.CREWがTIMEXに別注した'40年代のアーカイブから復刻されたモデルだったんです。実はこの時計、僕の中ではとても思い入れの深いモノでして。アンティークウォッチ然としたヴィンテージ加工が施された、プロダクトとして完成度の高い時計をJ.CREW本家から頂けたということも、もちろんその理由ではあるのですが、この時の別注デニムがリカーストア(ニューヨーク、トライベッカに存在したJ.CREWのメンズストア)でLEVI'Sの501のヨコに置いてもらえたという、想い出の付加価値もとても大きくて......。あれから10年以上の時が経ちましたが、何度かベルトを交換しながら使っていまして、今は通称『菊穴』と呼ばれる'50年代には姿を消すアイレット仕様のヴィンテージベルトをつけています」

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―TIMEXを身に着ける時

「特別なタイミングではなく、日常的にラフに使える気軽さが

僕にとっては一番波長が合うポイントですね」

「TIMEX以外にもいくつか時計を持っているのですが、実は僕、それらを身に着ける機会って極端に少ないんですよね。時計自体がアンティークだったり本当に大切な方から頂いた貴重なものだったりするので、傷をつけたり失くしたりするのが怖いからというのが大きな理由ですかね。でもTIMEXはちょっと違う。もちろん、大切にしていないという意味ではないし、先ほど紹介したTIMEXは自分の中では思い入れが強いのでどちらかというと使用頻度は高くない方ですが、広義でTIMEXはむしろ毎日何気なくラフに身に着けているのが正解だと思うし、定番モデルに関してはおそらく数年後も数十年後もほぼ同じ仕様でリリースされていそうな安心感もあるし、何よりも驚異的にコストパフォーマンスが高い。だからデイリーで使いたいという欲求に対して良い意味でとてもハードルが低いと思うんですよね。僕は職業柄アメリカンカジュアルスタイルのウエアを着ることが多いので、そんなスタイリングとも親和性が高いTIMEXは僕にとっては日常生活の一部みたいな存在ですね」

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―TIMEXの魅力とは?

「デニムと一緒で普段使いできる『ツール』として割り切って使える

本質的なアメリカンカジュアルを突いているところだと思います」

「生粋のアメリカンブランドで昔からほとんど変わらないデザインのプロダクトを『日用品』として大量に作り続けていて、その背景もあって低価格で世にそれらをリリースし続けているTIMEX。これってデニムに通ずるものがあると思うんです。要は宝飾品としての時計とは対極にある存在なわけですよね。ベトナム戦争時に生まれたいわゆるディスポーザブル(使い捨て)ウォッチの概念を作ったと言っても過言ではないブランドでもあるわけですし。5ポケットジーンズのようにどこかで『ツール』として割り切っているから気軽に使えるし、そういった存在だったからこそアメリカンカルチャーの一部として普遍的な支持を得ているのかなと。少し話が変わりますが、WAREHOUSE & CO.の定番の中にLot.1101というモデルがあるのですが、端的にいうとウチのこだわりを最大限に投下しつつも、デイリーに穿きこんでもらうことを最優先に置いて、コスパよく仕上げたモデルなんです。デニムって本来ガンガン穿き込むことが楽しいアイテムじゃないですか。でも、ヴィンテージデニムはもちろんのことそれに準じた超ハイエンドなリプロダクトモデルって、ユーザーからしたら価格も高いですし中々そうはいかない。だからこそデニムの魅力を本質的にユーザーに体現してもらいたくて製作したモデルなのですが、TIMEXって結果的にその感覚を昔からずっと貫き通しているわけじゃないですか。そこが本当にすごいし、一番の魅力なんだと思います。好きなモノはいかなる時も全力で使い倒したいというユーザー心理にしっかりと応えているなと」

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―いま選ぶTIMEX

「いかにも『アメリカ』って感じのペプシカラーの"Q TIMEX "です!

ベースモデルのリリース年が'79年というのもいい感じですね」

「今日もいくつか赤と青のツートーンカラーの私物を持ってきていますが、アメリカ国旗の色でもあるこのカラーリングがもともと僕は好きなんです。だから、必然的にこのモデルに吸い寄せられました(笑) あとは、Q TIMEXは'79年にリリースされたモデルの復刻とのことですが、その年代もポイントかなと思っていまして。'79年にソ連がアフガニスタンに侵攻した影響で、翌年のモスクワオリンピックをアメリカがボイコットしたことは語るまでもない有名な史実ですが、その際にオリンピック限定モデルのTIMEXが一度は発売されたものの、回収されているんです。市場でもなかなかそのモデルを見る機会が少ないのはそういった背景もあってのことらしいのですが、その時のオリンピック限定モデルがまさにこのカラーリングのQ TIMEXにオリンピックロゴが入ったものなんです。オリンピック限定モデルがたまたま、このカラーリングのQ TIMEXをベースにしていた、というだけの話なのですがオリンピックの話題で盛り上がっている今だからこそ、そういう意味でも面白いかなと。また、ファッション観点でいうならば、当時はバーシティジャケットの全盛期ですよね。ワッペンを盛々に貼り付けたバーシティジャケットを羽織った学生たちが、腕にこれをつけているのが目に浮かぶというか。僕のフィールドでもあるアメリカンカジュアルスタイルとも相性がよさそうだなと」

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―最後に

本来ワークウエアとして生まれ、「ディスポーザブル」なプロダクトしての魅力を100年近くの時を経て醸成してきたデニムとTIMEXの存在を重ね、日常生活の中で気兼ねなくモノを身に着けることの楽しさを語ってくれた藤木さん。モノの価値は値段以上にモノと共に過ごす体験価値にこそある。それこそが今回のインタビューで藤木さんから教えてもらった一番大切なことであると筆者は思う。

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Profile

WAREHOUSE & CO.

藤木将己

1974年生まれ。大学卒業後WAREHOUSE & CO.に入社。自身の持つヴィンテージワークウエア、アメリカンカルチャーに対する深い造詣を武器にアメリカンカジュアル業界のご意見番のひとりとして、多数のメディアに登場する同ブランドの名物プレス。

ディレクション/中島貴大 文/コボ田形 写真/澤田聖司